誰でもなりたい自分になれる
なりたい自分を手に入れたい。もしそれが叶わなかったとしても、せめて今の自分より少しでも良くなりたい。誰しもがそのように思うのではないだろうか?
もっと収入を増やしたい、もっと人から尊敬をされたい、もっとやりがいのある仕事に就きたいなど、人は生きている限りは、もっと良くなりたいと思い続ける生き物である。
人類は太古の時代より「もっと良くなりたい」という欲求を持ち続けることで進化を成し遂げてきた。人として「もっと良くなりたい」と願うことは当然の感情であり、それは私たちのDNAに組み込まれている進化のプログラムなのである。
『種の起源』を著したチャールズ・ダーウィンはこのことについて次のように述べている。
最も強い者が生き残るのではなく、最も賢い者が生き延びるのでもない。
唯一生き残ることが出来るのは、変化できる者である。
この言葉は硬直化した組織の持つ危うさなどへの警鐘として使われる場合が多いが、人類が長い長い時間をかけ生き残ってきたという事実が物語っているものは、私たちの遺伝子レベルには変化を希求する「何か」が存在しているということである。私たちは生まれながらにして成長と進化を約束された生命体であるのだ。
それでは、その本能的なものに身も心も委ね、「もっと良くなる」という状態を待っているだけでいいかと言えばそうでもない。人類という大きなくくりで見れば間違いなく進化への道を歩んでいる我々であるが、個々の人生においてそれが目に見える形で現わされるかと言えばそうではないのである。
本質的には、自らの成長と進化の扉は自らの意志をもってこじあけるしかないのである。
そしてそのように聞くと、とても苦しい修行のような日々を送り続けなければ「もっと良くなる」ことができないのではないか、あなたはそのように思うかもしれない。けれど、そうではない。先にも述べたように、私たちの遺伝子には「もっと良くなる」ためのプログラミングがされている。私たちはそのプログラムが起動するようにスイッチを入れてあげれば良いだけなのである。
プログラム起動に関する勘違い
なりたい自分になるために、あなたが先ずやらなければならないことは、「行き先を明確にする」ということである。もしもあなたがなりたい自分の姿を明確に描くことができないのであれば、あなたがなりたい自分を手に入れることは決してないだろう。
その理由は、私たちの脳にプログラミングされているある機能に関係している。
私たちの脳には「RAS(網様体賦活系)」というフィルターのような役割を果たすものが搭載されており、そのRASの働きによって、自分に必要な情報とそうでないものをふるいにかけている。その活動は私たちの脳が無意識に行っているものなので、コントロールすることができない。このことは、脳が行っている無意識の活動により、私たちが得る情報の質というよりも種類が変わるということを意味するのである。
あなたがもしもなりたい自分を明確に描けていたとしたら、あなたの脳はその達成に必要な情報をオートマティックに収集してきてくれる。つまりなりたい自分に必要な情報をあなたの脳が勝手に引き寄せてくれるのである。
何をしたいのか、何が欲しいのか、何になりたいのかが、はっきりわかると、RASはそのための方法を探し始める。
目標を心に決めると、それに関する情報が次々に目や耳に入り、くわしいことを知ることができるようになる。実に単純な方法だ。それなのに、実行する人はほとんどいない。
目標のリストをつねに読み替えているのと、自分にとってどの目標が本当に大事なのか、あるいは大事ではないのかが見えてくる。
その時は、新らしい項目を書き加えたり、すでに書いた目標を修正したり、削除したりするとよい。やがて、何度読んでも輝きを失わない目標がいくつかあるのに気づくだろう。それが、あなたにとっていちばん大切な目標である。(『ブレイン・プログラミング』より)
例えば新車の購入を考えていたりすると、自分の欲しい車がやたらと目に飛び込んできたりする。このような現象はRASの働きが生み出すものであるが、この誰もが持っている脳の機能を上手く活用し、あなたの欲しい現実を手繰り寄せることができるのだ。
それでは、あなたがなりたい自分をイメージするだけで、本当になりたい自分になることができるのだろうか?その答えは「Yes」でもあり「No」でもある。多くの人が引き寄せの法則などで勘違いしているのがこの部分であるのだが、誰もがイメージをするだけでなりたい自分になれるのかと言えば、残念ながらそうではないのである。
現在地を明確にする
あなたがどこか知らない場所へ旅行にいったことを想像してほしい。あなたは旅先でとても有名な三ツ星レストランでの食事を予定している。事前の予約や、場所の確認も済ませている。ドレスコードに相応しい洋服も用意しており、あとはレストランに向かうだけである。
しかしこの時、あなたはとても大きな問題に直面することになる。あなたは自分自身がいる場所が分かっていないということに気付くのである。GPSも機能しない状況、向かう場所ははっきりしているのに、いる場所が分からない。これと同じことがあなたの人生でも起こっている可能性があるのだ。
もしもあなたが「なりたい自分」を鮮明にイメージできたとしても、現在地の把握ができていなければ、「なりたい自分」に辿り着くことは決してできない。どんな時でも出発地点は等身大の自分を理解することから始まるのである。
それでは、そのようにして等身大の自分を理解することができるのであろうか?
ここに等身大の自分を理解するにあたって非常に有用な理論があるので紹介したいと思う。「ジョハリの窓」という有名な理論であり、既に知っている方も多いことだと思うが、「知っている」と「出来ている」の差がはっきりと出てしまう理論でもある。
「開放の窓」 自分も他人も知っている自己
「盲点の窓」 自分は気がついていないが、他人は知っている自己
「秘密の窓」 自分は知っているが、他人は気づいていない自己
「未知の窓」 誰からもまだ知られていない自己
「ジョハリの窓」とは、自分が知っている「自分の特徴」、他人が知っている「自分の特徴」の一致・不一致を4パターン(窓のように見える枠)に分類することで自己理解のズレに気づき、それを受け入れることで他人とのコミュニケーションを円滑にする、心理学ではよく使われているフレームワーク(手法)である。
このフレームワークを理解することによって、自分自身の「開放の窓」を大きく広げていくことが等身大の自分を理解するということである。
「開放の窓」を大きく広げるためには避けては通ることのできない二つのポイントがある。一つ目は「自己開示」であり、自分は知っているが、他人は気づいていない自己の領域を広げていくことである。あなたは自らのパートナーや大切な友人に対し、どれぐらい自分の考えや気持ちを正直に伝えることができているだろうか?もしも隠しごとがあったり、自分を抑えてしまっているようなことがれば、自分自身の現在地を理解するためにも、「自己開示」を進めていこう。
もう一つのポイントは「他人からのフィードバックを受ける」ことである。自分は気がついていないが、他人は知っている自己の領域を広げていくことである。あなたは他人からどのように見えているのだろうか?少し勇気を出して、できるだけ多くの人から「自分はどんな人か」ということを聞き出してみよう。そうすることによって自分では気づいていない自分自身の現在地を理解することができるはずだ。
このようにして「開放の窓」を拡大させていくチャレンジは、自分自身の現在地の理解に役立つだけでなく、ビジネスにも、私生活にも活用できる。ジョハリの窓の使い方をマスターすることによって、あなたは自分自身の人生をより豊かにすることができるのである。
自分の納得感を最優先する
自分の現在地が明確になり、行きたい場所が定まれば、あとは目標に向かって突き進むだけである。きっと様々な出来事があなたを応援してくれるかのように展開していく現実を目の当たりにするはずである。
但し、ここでも気にしてほしいことが一つある。それはあなたの行きたい場所は、人に認められることを基準としてしまってはいないか、ということである。
成功にはいろいろとあると思うんですけど、「自分のなかで立てた目標というものを成し遂げた」そのことを成功というのなら、わかります。でも、他人が言う成功を追いかけ始めたら、なにが成功かわからなくなってしまいます。
テレビのインタビューで「成功とは何か?」という質問を受けた際の、イチローの答えである。
イチロー自身「成功」という言葉をあまり好まない。成功という言葉には他者がどう評価するか、そのような意味が含まれてしまうからである。成功とか失敗は自分が決めるものであり、他人に決められるものではない。そういった信念がイチローの行動を支配しているのだ。
周囲の評価を気にするあまり、自ら信じる道を曲げてはならない。たとえ結果が出なくても、自分が満足すればそれで十分である。たとえ誰に認められなかったとしても、自分が納得することを優先させる。そのような思考習慣が現在のイチローを創り上げたのである。
人に認められる自分を目指すのではない、自分が納得する自分を目指すのである。そうしたマインドセットは、より加速度的にあなたを「なりたい自分」へと導いてくれる。
シマケン【依存脱出ナビゲイター】
自らが、酒・たばこ・ギャンブルなどの様々な依存を克服してきた体験をもとに、依存脱出の手段を多くの人に伝える活動を行っている。