どうして習慣化できないのか
「三日坊主」という言葉が示すように、人は悲しいくらい同じことを継続することが難しい生き物である。誰しもが、早起き、マラソン、日記、読書などなど、一度やろうと決めたにも関わらず、途中で挫折してしまった経験を持っているのではないだろうか?
「三日坊主」という現象を生物学的に解き明かせば、それは「慣れ」であり、心理学的に解き明かすと、それは「飽きてしまっている」という状態に該当する。それは「馴化(じゅんか)」や「心理的飽和」と呼ばれる状態に該当するのであるが、その状態は以下のようなものである。
馴化: 生物が異なる土地に移された場合その気候条件に適応し,または移されなくても同一地においての気候条件の変動に次第に適応すること。また適応させることをいう。 広くは自然または実験室条件下で,それまで出会わなかった条件に次第に順応していくことをさす。
心理的飽和:効果がみられない同一の作業を反復し続けた場合,いわゆる飽きがきてこれを続ける意志がなくなること。現象的には作業能率の低下となって現れる。飽和に達するまでの時間を飽和時間というが,飽和時間は人,作業の種類,作業場面など種々の要因に規定される。
(ブリタニカ国際大百科事典より)
よく、「三日坊主」は意志の弱さだとか言われたりもするが、人がなかなか習慣化をできない理由は、本能的にインプットされている適応能力によるものと、感情的な側面が受け取る新鮮味の欠如によるものなのである。それなのに、結果的に習慣化がうまくいかなかったことを卑下してしまい、自分自身を責めるタイプの人が多くいるのも事実である。
もしもあなたが習慣化に対する苦手意識を持っているとしたら、あなたが習慣を継続できない理由は決してあなた自身が駄目なのではない、ということを理解してほしい。あなたの意志が強いとか弱いというような問題でもない。どちらかと言えば、あなたの本能的な活動や心理的な活動が正常に機能している証拠でもあるのだ。
習慣の引き出しを整理する
しかしながら、なかなか続けられない正当な理由があったとしても、良い習慣を持つことが、あなたの人生を大きく変化させることも事実である。
心が変われば態度が変わる
態度が変われば行動が変わる
行動が変われば習慣が変わる
習慣が変われば人格が変わる
人格が変われば運命が変わる
運命が変われば人生が変わる
これは、戦後初の三冠王かつ世界のプロ野球史上初の捕手の三冠王で、選手出場試合数歴代2位、監督出場試合数歴代3位、通算本塁打数歴代2位、通算安打数歴代2位、通算打点数歴代2位、通算犠飛数歴代1位、パ・リーグ通算安打数1位などの輝かしい記録を保持する野村克也氏の言葉であるが、もしもあなたが習慣をより良い方向へと変えることに成功すれば、あなたは自らの人生を輝かしいものへと変えることもできるのである。
きっとあなたは「人生をもっと良くしたい」と思っているだろう。そして、その一つのヒントが「良い習慣を持つこと」だと聞いたら、今すぐにでも新しい習慣を始めようと思うはずだ。明日から早起きをしようとか、マラソンを始めようとか、日記を書こうとか、本をたくさん読もうとか…
しかし、その前にやってほしいことが一つある。それは「悪い習慣」を減らすということである。
「悪貨は良貨を駆逐する」
これはグレシャムの法則と呼ばれるものであるが、一つの社会で,名目 (額面) 価値は等しいが素材価値の異なる2種類の貨幣が同時に流通する場合には,素材価値が高いほうの貨幣はその素材自体の価値のために退蔵されたり,つぶされたり,海外に流出したりするため,実際に市場に流通するのは,素材価値の低いほうの貨幣だけになってしまうというのだ。(ブリタニカ国際大百科事典より)
これと同じことが習慣化についても生じるのである。例えば良い習慣を身に付けようとしても、悪い習慣が生活に入り込むと、良い習慣は悪い習慣に駆逐されてしまうのである。
もしあなたがどうしても「自分の人生を良くしたい」と思い、自分の生活の中に「良い習慣」を取り入れようとするときには、まず最初に何か減らすことのできる「悪い習慣」、例えば、夜更かしや、取らなくてもいい間食、喫煙やお酒の飲み過ぎなどをやめることにチャレンジしてみてほしい。
あなたが無くすべき悪習慣
あなたが「悪い習慣」と聞いて思い浮かべるものは何だろうか?一般的に悪い習慣は「依存」と呼ばれるものに当てはまる場合が多い。アルコール、ニコチン、過食、ドラッグなど物質に対する依存であったり、過保護、過干渉、職場、DV、宗教など人に対する依存であったり、ギャンブル、買い物、仕事、インターネット、恋愛、セックス、リストカットなど行為に対する依存などである。
先ずはあなたの生活を観察し、自らの生活の中に、これら「依存」に当てはまるものがないかをチェックしてみよう。そしてその中から、あまり無理をせずにやめられるものがあれば、それをやめる。何か新しい習慣を始めるよりも前に、悪い習慣を減らすことから始めてみてほしいのである。そうすることによって、あなたの良い習慣が悪い習慣に駆逐されるのを防ぐことができる。
またその他にも「悪い習慣」に定義されるものが幾つかある。これらは心の在り方、言ってみれば思考習慣に関するものなので、例えば禁煙のように「0か1か(やめるかやめないか)」で判断できるものではないが、常に気にすることによって、減らしていくことができるものでもある。
代表的な悪い思考習慣
・先延ばし
・クヨクヨ
・イライラ
・完璧主義
誰にでも大なり小なり、これに似たような思考が顔を出す瞬間があることだろう。そのような時には、その思考に振り回されることがないように注意を払っていくことが求められる。特に「ま、いっか」という思考習慣は私たちの人生に大きな暗い影を落とすものである。
あなたが何かを途中で諦めてしまうとき、投げ出してしまうとき、あなたの心の中には「ま、いっか」という言葉が生まれていることが多いはずである。この言葉が持つダークエネルギーはかなり大きなものであり、あなたの人生のチャンスをことごとく奪っていくだけでなく、あなたの成長や進化を止めてしまう。
自らの人生に、より主体的なマインドセットを持とうとすればするほど、この「ま、いっか」という思考習慣を退治していく必要性がある。「ま、いっか」は自らの人生の主導権を手放すときに使われる呪いの言葉のようなものなのである。
騙されたと思って、「ま、いっか」が自分の内側に生じたときに、一歩立ち止まってみてほしい。そして、その呪いの言葉に負けないように、自らの意志のチカラを用いて、それを乗り越えていくのである。そうすることによって、私たちは自らの手に人生の主導権を持つことができるのである。
特別な成果は平凡な努力から生まれる
やれることはすべてやったし、手を抜いたことは一度もありません。常にやれることをやろうとした自分がいたこと、それに対して準備ができた自分がいたことを、誇りに思っています。
ある年、200本安打を達成したあとのインタビューでのイチローの言葉である。ここにはイチローの成功習慣のエッセンスとも呼べるものが詰まっているように思える。
イチローは何も特別なことをやったから特別な結果を残したのではなく、自分にやれることを手抜きせずに、きちんとやり続けたことが特別な結果につながったのである。
「自分との小さな約束を守る」
自分が「やる」と決めたことは何があってもやり遂げる。「ま、いっか」という自分を退治し、必ずやり遂げることが大切なのだ。
自分との約束を守ることによって育まれる「自分への信頼」が、どんな場面でも最高のパフォーマンスが発揮できる、一流の人間を創り上げる。
一流と呼ばれる人の仕事ぶりを観察していて気づかされる事実は、彼らが格別すごい努力をしているというわけではなく、彼らは当りまえのことを当りまえに行うという点に強いコミットメントをしている。平凡なことだから手抜きをすることもなく、小さなことだから今日一日くらいサボってもいいだろうと明日に先送りすることもしない。
行うべきことを必要なときに必ず行う。
自分でやること、やろうと決めたことに対しては、手抜きをしないことです。そこで手抜きをしていたら、たぶんそっぽを向かれると思いますよ。おまえ、自分が決めたこともやれないのか、というふうに思われちゃうでしょうからね。
これは「やる気」の問題ではない。やる気があるからやる、やる気がないからやらない。そういう問題ではないのだ。そのとき自分にやる気があろうがなかろうが、やろうと自分で決めたこと、やるべきだと自分に課したことはかならずやる。そういう習慣を一流の人間は身につけている。
一流の人間にとって努力とは、意欲の問題ではなく習慣の問題なのである。
その習慣のチカラが積もり積もって、発揮されるパフォーマンスに大きな差となってあらわれてくる。すごい結果はすごい努力から生み出されるというより、「自分が決めた小さな約束をいつも必ず守る」、そのありきたりの努力の継続から生まれると言える。
調子のいいとき、やる気のあるときなら、誰でも努力することができる。肝心なのは、調子のいい悪いに関わらず、あるいは、やる気があろうがなかろうが、やれること、やるべきことをいつものようにこなせるかどうか。それがあなたを大きく成長させ、成功に導く習慣となるのである。
シマケン【依存脱出ナビゲイター】
自らが、酒・たばこ・ギャンブルなどの様々な依存を克服してきた体験をもとに、依存脱出の手段を多くの人に伝える活動を行っている。